近年、AI(人工知能)は急速に進歩し、私たちの生活のさまざまな場面で活用されるようになりました。
スマートフォンの音声認識や自動翻訳、自動運転技術など、これまで人が行っていた作業をAIがサポートする時代になっています。
医療の世界でもAIの活用は進んでおり、眼科も例外ではありません。日本眼科AI学会というものも存在します。

眼科におけるAI
眼科ではすでに、
- 糖尿病網膜症の診断支援
- 緑内障の早期発見
- OCT画像解析
- 近視進行予測
などでAIの研究や実用化が進んでいます。
では、白内障手術ではどうでしょうか。

「AIが手術をする時代になったの?」
「ロボットが自動で白内障手術をしてくれるの?」
そのようなイメージを持つ方もいるかもしれません。
実際、眼科領域ではロボットを用いた手術の研究が進められています。2017年にはEdwardsらが、ロボット支援による網膜手術の成功を報告し、眼科手術におけるロボット技術の可能性を示しました(Nature Biomedical Engineering, 2017)。
しかし残念ながら現在の白内障手術では、AIやロボットが患者さんの目を自動で手術しているわけではありません。
現時点でのAIの役割は、「医師の代わり」ではなく、「医師を支えること」です。
現在、白内障手術においてAIが活用されている、あるいは今後期待されている分野は大きく3つあります。
① AIによる眼内レンズ度数計算
現在、白内障手術で最も実用化が進んでいるAI技術が眼内レンズ(IOL)度数計算です。
白内障手術では、濁った水晶体を取り除いた後に眼内レンズを挿入します。
患者さんが最も気になることの一つは、
「手術後にどのくらい見えるようになるのか」
ではないでしょうか。
その見え方を左右する重要な要素が、眼内レンズの度数です。
術前には、
- 眼軸長(眼球の長さ)
- 角膜の形状 (透明な組織の形)
- 前房深度 (角膜から水晶体までの距離)
- 水晶体の厚み
などを測定し、最適なレンズ度数を計算します。
近年ではAIを活用した新しい計算方法が登場しています。
代表的なものとして、
- Hill-RBF
- Kane Formula
- PEARL-DGS
などがあります。
AIは過去の膨大な手術データを学習し、
「このような目の特徴を持つ患者さんでは、どの度数が最も良い結果になったか」
を解析します。
2024年に発表されたいくつかの報告をまとめた論文では(Journal of Clinical Medicine)では、Kane FormulaやPEARL-DGSなどのAI関連計算式が高い予測精度を示すことが報告されています。
当院でも近視の強い方にはこれら計算式を併用します。
つまりAIは、患者さんにより適したレンズ度数を選ぶための「優秀な計算サポーター」として活躍し始めているのです。
② AIによる手術支援システム
「AIが手術をしてくれるのですか?」
と質問されることがあります。
実際には、現在の白内障手術は眼科医が行っており、AIが自動で手術を行うわけではありません。
一方で、AIが手術をサポートする研究は世界中で進められています。
2024年に報告されたの多数の論文のまとめ(Translational Vision Science & Technology)では、AIを用いた白内障手術研究が急速に増加していることが報告されています。
現在の研究では、AIが手術動画を解析し、
- 今どの手術工程を行っているか
- どの器具が使われているか
- 手術操作が適切に行われているか
などを認識できるようになっています。
また、
- 若手医師の教育
- 熟練医師の技術解析
- 手術手技の標準化
への応用も期待されています。
眼科領域全体では、ロボットを用いた手術研究も進んでいます。
Edwardsらは2018年に、ロボット支援による眼内手術の安全性を報告しました(Nature Biomedical Engineering)。
ただし現時点では、AIやロボットが患者さんの目を自動で手術する時代には至っていません。
白内障手術の安全性と成功率を支えているのは、依然として術者の経験や判断力です。
③ AIによる術後合併症リスクの予測
AIの活用は手術前や手術中だけではありません。
近年は、白内障手術後の経過予測にもAIが活用され始めています。
白内障手術は非常に安全性の高い手術ですが、
- 後発白内障 (術後の濁り)
- 黄斑浮腫 (中心部のむくみ)
- 眼内レンズ偏位・脱臼 (人口レンズのズレ)
- 炎症の遷延
などの合併症が起こることがあります。
2024年にAhujaらが発表した論文(Clinical Ophthalmology)では、AIを用いて術後合併症の発生リスクを予測する研究が進んでいることが紹介されています。
例えば、患者さんの背景情報や検査データ、手術データをAIが解析することで、
「どのような合併症が起こりやすいか」
を事前に予測できる可能性があります。
また、後発白内障の発症リスクや重症度を予測する研究も報告されています。
将来的には、
- リスクの高い患者さんを早期に発見する
- 個別化された経過観察を行う
- 合併症の早期発見につなげる
ことが期待されています。
ただし、この分野の多くはまだ研究段階であり、現時点では眼科医による診察や検査が最も重要であることに変わりはありません。

まとめ
AI技術の進歩により、白内障手術の分野でもさまざまな変化が起こり始めています。
現在、最も実用化が進んでいるのは眼内レンズ度数計算の分野であり、AIを活用することで術後の見え方をより正確に予測できるようになってきています。
さらに、
- 手術動画の解析による手術支援
- 術後合併症リスクの予測
- 手術教育や技術評価
などの分野でも研究が進んでおり、将来的にはより安全で質の高い白内障医療につながることが期待されています。
一方で、現在のAIはあくまで医師を支援するためのツールです。
患者さん一人ひとりの生活スタイルや希望する見え方、不安や悩みを理解し、最適な治療方針を決定することはAIにはできません。
大切なのは「AIが手術をすること」ではなく、「AIを適切に活用しながら、経験豊富な眼科医が診療を行うこと」です。
AI技術は今後さらに発展していくと考えられますが、患者さんに寄り添いながら最善の治療を提供するという医療の本質は変わりません。
当院ではAIを参考に、患者さん一人ひとりに適した白内障治療を提供できるよう努めています。白内障や手術について不安なことがありましたら、お気軽にご相談ください。







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