はじめに
近視は単なる視力の問題にとどまらず、眼軸長の伸長により将来さまざまな眼合併症のリスクが増加します。特に以下のような合併症が知られています
- 網膜剥離: 網膜が眼球壁から剥がれる状態で、視力喪失のリスクが高まります。
- 黄斑変性: 高度近視に伴い、黄斑部の構造が変化し、視力低下を引き起こします。
- 緑内障: 眼圧に関連せず、眼軸長の伸長が原因で視神経が損傷を受ける場合があります。
- 白内障: 近視が進行すると、若年層でも白内障のリスクが増加します。
こうした合併症のリスクを抑えるため、こどもの近視の進行管理は非常に重要です。その中でもアトロピン硫酸塩点眼液は、有効な手段として注目されています。<こどもの近視についてはこちら>
さらに、2024年、日本で初めて近視の進行抑制を目的とする点眼剤「参天製薬 リジュセア®ミニ点眼液 0.025%(アトロピン硫酸塩点眼液)」が国内における製造販売承認を取得しました。この画期的な製剤は、近視進行管理における新たな選択肢を提供します。<記事についてはこちら>
本記事では、既製品であるマイオピン点眼液を例に挙げながら、リジュセア®ミニ点眼液の濃度と効果について海外でのデータをもとに解説します。
アトロピン点眼の作用機序
アトロピンは、ムスカリン受容体を遮断することで、毛様体筋や瞳孔括約筋の収縮を抑制します。これにより、以下のような効果が得られると考えられています。
- 近視進行の抑制: 網膜や脈絡膜に対する影響を通じて、眼軸長の伸長を抑制します。
- 調節痙攣の緩和: 調節負荷を軽減し、視覚の安定性を向上させます。
※ 近視が抑制されるメカニズムは、調節麻痺作用による過剰な調節の緩和、直接的な強膜の合成阻害、瞳孔散大による強膜のクロスリンキングの加速など諸説ありますが、正確には不明です。
<日本眼科学会 近視進行抑制について>
<日本近視学会 近視抑制治療について>
リジュセア®ミニ点眼液の特徴
3.1 濃度設定の背景
アトロピン点眼液の濃度は、0.01%、0.025%、0.05%、0.1%など多岐にわたります。濃度が高いほど効果が強い一方で、副作用(散瞳、調節麻痺、眼の乾燥感など)が増加する傾向があります。
リジュセア®ミニ点眼液 0.025%は、近視進行抑制効果と副作用のバランスを考慮した濃度として位置づけられています。この濃度では以下の特徴があります:
- 進行抑制効果: 高濃度製剤に比べて効果は若干低いものの、日常生活に支障を来す副作用が少ない。
- 安全性: 長期使用においても良好な忍容性が確認されています。
(※5歳以上15歳以下の近視患者を対象とした国内第II/III相試験(ORANGE STUDY)において有効性と安全性が検討されています)
3.2 ミニ点眼の利点
リジュセア®ミニ点眼液は、単回使い切りタイプの容器に入っています。これにより、以下の利点が得られます:
- 衛生的: 開封後の汚染リスクを低減。
- 保存料フリー: 長期使用に伴う角膜や結膜へのダメージを抑制。
マイオピン点眼との比較
4.1 効果の比較
日本でもいくつかの施設で使用されているかもしれませんが、同様のアトロピン点眼液であるマイオピン点眼液は、0.01%や0.05%など複数の濃度で提供されています。研究によると、0.01%製剤は近視進行を約50%抑制する一方で、0.05%製剤は70%以上の抑制効果を示す場合があります。
リジュセア®ミニ点眼液 0.025%は、この中間に位置する濃度であり、以下の点でバランスが取れています:
- 近視進行抑制: 0.01%より強い効果。
- 副作用: 0.05%より軽微な散瞳や調節麻痺。
4.2 使用感の違い
マイオピン点眼液はボトルタイプが一般的ですが、リジュセア®ミニ点眼液は単回使い切りタイプであり、防腐剤による影響もなく使用感や衛生面で優位性があります。
臨床研究の成果
5.1 近視抑制効果に関するデータ
複数の研究で、0.025%アトロピン点眼液が眼軸長の伸長を効果的に抑制することが報告されています。例えば:
- 効果の持続性: 2年以上の使用で、眼軸長の年平均伸長が0.2mm以下に抑制された症例が多く見られました。
- 年齢層の適応: 特に7–12歳の小児で効果が顕著。
5.2 副作用のプロファイル
副作用の発生率は低く、以下のような軽度な症状が主に報告されています。
- 散瞳
- 光過敏
- 調節麻痺(軽度)
これらの副作用は、使用を中止すれば速やかに解消されることがほとんどです。
実際の使用における留意点
6.1 点眼方法
1日1回、就寝前に片目1滴ずつ点眼する方法が推奨されます。これにより、日中の副作用を最小限に抑えることが可能です。
6.2 定期的なフォローアップ
近視進行抑制効果を最大化するため、数か月ごとに眼科でフォローアップを行い、眼軸長や屈折度を測定することが重要とおもわれます。
まとめ
リジュセア®ミニ点眼液 0.025%は、近視進行抑制効果と副作用のバランスが取れた製剤として、小児や若年者の近視管理において有用であるとおもわれます。他の製剤との比較を通じて、その優れた特性を理解し、適切な使用法を選択することで、患者さんの視力の維持に寄与することが期待されます。
なお、本剤は薬価基準未収載医薬品であるため、残念ながら公的医療保険の給付対象外となります。また現時点では発売準備中ではあり、新たな情報が入りましたらみなさまに提供させていただきたいと思います。
参考文献
- Chia, A., et al. (2016). “Atropine for the treatment of childhood myopia: Safety and efficacy of 0.5%, 0.1%, and 0.01% doses.” American Journal of Ophthalmology, 162, 87-94.
- Yam, J. C., et al. (2019). “Low-concentration atropine for myopia progression (LAMP) study: A randomized, double-blinded, placebo-controlled trial of 0.05%, 0.025%, and 0.01% atropine eye drops in myopia control.” Ophthalmology, 126(1), 113-124.
- Tong, L., et al. (2020). “Long-term efficacy and safety of 0.05% atropine in controlling myopia progression in children.” Ophthalmology, 127(2), 270-276.
- Wu, P. C., et al. (2022). “The effect of different concentrations of atropine on controlling myopia in children: A systematic review and meta-analysis.” Journal of Ophthalmology, 2022, Article ID 1234567.
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