先日、成人の病的近視をテーマとした講演会を聴講する機会がありました。
近年、近視予防や進行抑制が盛んに語られていますが、その一方で
「成人の近視は本当に止まっているのか?」
という点にも、注目が集まっています。
これまで強度近視に伴う網膜剥離や緑内障の手術に携わってきましたが、多くの症例を経験する中で、次第に実感するようになったことがあります。
それは、
発症してからの治療には、どうしても限界がある
という事実です。
どれほど手術技術が進歩しても、失われた機能を完全に取り戻すことはできません。
だからこそ今、「発症させない医療」への転換が重要だと感じています。
「眼軸」とは?
眼軸とは、
角膜から網膜までの目の長さのことです。
通常は約23〜24mmですが、
26mm以上になると「強度近視」に分類されることが多く、
将来的に以下のリスクが高まります。
- 網膜剥離
- 近視性黄斑変性
- 緑内障
- 視力低下
成人でも眼軸は伸びるのか?
近視は成長期で進行し、成人すると安定するというのが一般的です。しかし、中には強度近視を有する方で高齢になっても年々目の長さ、眼軸が伸びている方も時折みられました。
そんな中で、日本人成人を5年間追跡した研究がOphthalmology Science に報告されています。
Risk Factors for Adult Axial Length Elongation:A 5-Year Population-Based Cohort Study
この縦断研究では、
- 年齢が若い
- 女性
- もともとの眼軸が長い(強度近視)
といった因子が、成人における眼軸伸長と関連していました。
伸び幅は大きくはありませんが、
成人でも完全に安定しているとは言えない
という事実は、臨床的に非常に重要です。
約9,000人規模の日本人データ
さらに、日本人約9,000人を対象とした大規模コホート研究が
British Journal of Ophthalmology に掲載されています。
この研究でも、
- 若年
- 女性
- 強度近視
が成人眼軸伸長と関連していました。
そして注目すべき点として、
血清IgE高値との関連
が報告されています。
IgEはアレルギー体質の指標です。
この関連は、「近視の進行には炎症や体質的要因が関与している可能性」を示唆しています。
もちろんIgEが直接原因と断定するものではありませんが、
近視は単なる屈折の問題ではなく、
生物学的背景を持つ疾患である可能性
を示している点が非常に興味深いところです。
眼圧との関連
若年成人の強度近視を追跡した研究が
American Journal of Ophthalmology に報告されています。
この研究では、
- 40歳未満
- 女性
- 非常に長い眼軸
- 眼圧が高い
ことが進行リスクと関連していました。
さらに、緑内障点眼薬を使用している群では進行リスクが低い可能性も示されています。
これは、
点眼薬による眼圧というストレスを下げることによる、眼球の壁(強膜)に対する進展力の低下や脈絡膜血流の増加
を示唆する知見です。
眼軸26mm以上がもたらすもの
一般に眼軸26mm以上は強度近視とされます。
問題は視力だけではありません。
眼球が伸びることで、
- 脈絡膜が菲薄化
- 網脈絡膜萎縮
- 黄斑部変性
が進行し、
**近視性黄斑症(myopic maculopathy)**へとつながります。
これは進行すると中心視力が低下し、
視機能の回復は容易ではありません。
さらに、
- 網膜剥離
- 強度近視関連緑内障
のリスクも上昇します。
手術を経験してきたからこそ思うこと
強度近視に伴う網膜剥離手術は容易ではありません。
強度近視の緑内障も、視神経評価や手術判断が難しいケースが少なくありません。
手術を行うたびに思うのは、
もしこの進行をもっと早い段階で止められていたら
ということです。
だからこそ今、
「手術をする医療」から「手術をさせない医療」へ
という視点が大切だと考えています。
近視予防の時代に
近年、小児近視抑制が注目されています。
残念ながら、成人の眼軸長進展に対しては現時点で確立した治療法はありませんが、
- 眼軸の定期測定
- OCTによる網膜・視神経評価
- 適切な眼圧管理
は将来リスク軽減につながる可能性があります。

まとめ
最新の研究から、
✅ 成人でも眼軸は伸び得る
✅ 若年・女性・強度近視がリスク
✅ 約9,000人規模研究でIgE高値との関連も示唆
✅ 眼圧が関与する可能性
✅ 眼軸26mm以上では近視性黄斑症など重篤疾患リスク
が示されています。
近視予防が盛んに語られる今こそ、
「発症してから治す」から
「発症させない」へ
という医療の在り方を考える必要があると思います。








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