今回、日本眼科学会から出されている雑誌「日本の眼科 2021年5月号」で取り上げられた記事を抜粋します。
眼鏡といえば、最近は眼科での診察を受けず、手軽にかつ安く購入できるメリットから量販店へ出向き、その場でササっと眼鏡を処方することが出来てしまいます。
視力の変動のない年齢であればそれでも良いかもしれません。
しかし、子どもの視力は視機能の発達や近視の進行などが大きく変動し、さらに調節も過大に働いてしまうため、眼鏡処方が非常に難しいところであります。
そのような視力矯正の難しい子どもの眼鏡を量販店のみで作成することの不具合が発生する事例が多数報告されていました。
子どもの眼鏡についてのアンケート
2021年1~2月の間に、15歳までの子供の眼鏡について眼科医からアンケートを取り、その中で眼鏡処方箋なしで眼鏡を作成した結果、どのような不具合が生じたのかを調べたそうです。
<処方箋無しで眼鏡を作る問題点>
71人の子どもの眼鏡についてのアンケートから、処方箋無しで眼鏡を作成すると起こる問題点が明らかにされました。
問題点 | 回答数(例) |
レンズの度数が不適 | 64 |
光学中心や瞳孔間距離が不適 | 8 |
眼鏡のフィッティングが不適 | 6 |
疾患の有無(弱視、斜視、その他) | 16 |
その他の問題点やコメント | 20 |
合計(複数回答可) | 114 |
レンズ度数が不適切
最も多かったのは「度数が適切でない」でした。
眼科医のコメントとしては以下のようなものでした。
・眼科での裸眼視力は両目ともに1.2で遠視であるにもかかわらず近視と判断され眼鏡を作成されていた。
・-2Dの近視に-3~-4Dの眼鏡が処方されていた。
・右眼完全矯正、左眼著しい過矯正。
・スマホやゲームによる仮性近視(瞳孔緊張症)で過矯正の眼鏡を作成された。
・眼鏡屋さんで作成した眼鏡が過矯正であったため、弱い度数で処方箋を持参したところ、さらに強い度数の眼鏡に変更されて戻ってきた。
・遠視の子供に対して遠視の度数が足りない。
・学校検診で視力低下を指摘され、眼鏡店で直接2回眼鏡作成するも改善せず、眼科受診を初めてする。作成された眼鏡は過矯正であり、最終的には眼鏡は不要であった。
・・・・
(※アンケートの医師のコメントを一部わかりやすい内容に変更)
これらの内容をみるといずれも近視は「過矯正」、遠視は「低矯正」であったことが原因であったものと判断できます。
適切な眼鏡を作るためには
なぜこのような事が起こるのでしょうか
先にも述べましたように、子どもは成長と共に視力も大きく変化していく時期であります。また調節も大きく働いてしまいます。
こどもは近視の眼鏡度数を多少強くしてもよりはっきりくっきり見えるように、自ら気が付かない間に調節をしているものです。(15歳で12Dの調節力をもっています)
※調節についてはこちらの一部で解説
そのため眼科での視力検査や、調節力をおとす検査薬を使用することなく、眼鏡店で眼鏡を作成してしまうと近視の子どもは過矯正、つまり度数が強すぎる眼鏡を作成されてしまうことがあるのです。
特に最近はスマホやゲームで目を酷使する機会が格段に増えてきているため、調節した状態から戻りにくくなってしまいます。こまめな休憩・外での遊びの中で遠くを見ることを勧めるのは目の緊張をほぐす目的があります。場合によってはご自宅で夜間調節をおとす目薬をした状態で眼科を受診していただき、再度視力検査をしたうえで眼鏡処方をする方が良いこともあります。
本来であれば小学生くらいの子供に正確な近視・遠視度数を測定するためには調節麻痺薬をしようして検査を行うのが理想的です。
しかし受診した子ども全てに調節麻痺薬を使用していると日常生活に支障をきたしてしまいますので、何度か眼科に受診していただき視力検査を行う中で、安定した視力を確認し、必要に応じて調節麻痺薬を使用した検査を行うことで本来の近視・遠視を確認することになります。
近視の進行と予防について
近年はアジアでの小中学生の近視化が進んできています。地域は違うため参考程度ですが、東京都内の小中学生で調査した結果、小学生689人中76.5%、中学727人中94.9%と非常に多くの子どもが近視であったという調査もあります。(2019年四倉らの報告による)
今後、全国的に近視が進んでいくと近視による目の病気も増えてくることになります。
予防策としては、スマホ・ゲーム・勉強など近くの作業を行うとき姿勢を考えましょう。やはり近視の進行には大きく環境因子が影響します。正しい姿勢で、30センチほどの十分に距離をとり、適度に休憩を入れながら行うようにしましょう。そして学校検診で視力低下を指摘され、そろそろ眼鏡が必要なのではと考えられたら、まずは眼科で十分な検査を行ってから検討しましょう。
※学校検診で見ている内容についてはこちら
<参考:日本の眼科 2021年5月号>