• 地域に密着した岐阜市の眼科

若くして白内障?~アトピー性皮膚炎の影に潜む危険とは~

おしらせ

アトピー性皮膚炎は皮膚だけでなく、さまざまな合併症を引き起こす全身性の疾患です。中でも眼に関連する合併症は、視力に直接関わるため、日常生活の質(QOL)にも大きな影響を及ぼします。アトピー性皮膚炎の患者さんの中には、若年で視力障害を来す方も少なくありません。

本シリーズでは、「アトピー性皮膚炎と眼の病気」をテーマに、白内障、網膜剥離、そして続発性緑内障といった主な合併症について、3回に分けてわかりやすく解説していきます。

  • 1弾:アトピー性皮膚炎と白内障の関係について
  • 2弾:アトピー性皮膚炎と網膜剥離の関係について
  • 3弾:アトピー性皮膚炎と緑内障(続発性緑内障)の関係について

どの記事も、大学病院で白内障手術、網膜剥離手術、緑内障手術を行ってきた医師が、わかりやすく丁寧に説明しています。ご自身やご家族の健康管理の一助となれば幸いです。

<アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2024>

はじめに

白内障と聞くと、高齢者に多い目の病気というイメージがあるかもしれません。ところが、10代や20代の若い世代でも白内障を発症するケースが存在します。とくに注意すべきなのが、「アトピー性皮膚炎」と深く関係するアトピー性白内障です。

この記事ではアトピー性白内障の原因や症状、手術に関する注意点、そして術後に起こりやすい合併症について、一般の方にも分かりやすく解説します。


アトピー性皮膚炎と白内障の関係とは?

アトピー性皮膚炎は、かゆみを伴う慢性的な皮膚の炎症を特徴とする疾患です。しかし、アトピーは「皮膚だけの病気」ではありません。実は目にもさまざまな影響を与えます。

中でも白内障との関係は強く、特に10〜30代という若年層において、通常では考えにくい進行性の白内障が発生します。これはアトピー性白内障と呼ばれ、早期の視力低下を招く重大な合併症です。


アトピー性白内障の特徴とは?

アトピー性白内障の最大の特徴は、前嚢下ぜんのうか白内障」というタイプが多いことです。これはカメラのレンズ部分に相当する「水晶体」の前側にヒトデ状の濁りが生じるもので、特にまぶしい光に対して敏感になり、日常生活での不自由が大きくなります。

さらに、アトピー性白内障は両眼性かつ進行が早いという特徴があります。

アトピー性皮膚炎患者のうち約15〜30%が白内障を有し、なかには視力0.1未満まで低下してしまうものもあります。


なぜアトピーで白内障になるのか?

主な原因として次の要因が挙げられます。

1. 目をこする・たたくなどの外的刺激

かゆみにより目の周囲を頻繁にこすったり叩いたりする行動が、長期的に水晶体に微細な損傷を与えます。

2. 慢性炎症による酸化ストレス

アトピー性皮膚炎では全身性の炎症が長く続くことが多く、活性酸素の発生により水晶体が濁りやすくなります。

3. ステロイドの長期使用

外用薬だけでなく、内服・点眼・吸入などのステロイド使用が、白内障発症のリスクを高めるとされます。特に高用量かつ長期使用でリスクが高まります。

アトピー患者の白内障がステロイド使用と強く関連しているとしながらも、非ステロイド使用者にも発症が見られたことから、「複合的な要因による発症である」と考えられています(吉田ら, 2003)。


自覚症状と診断の流れ

アトピー性白内障の初期症状は、以下のようなものです。

  • 光がまぶしく感じる
  • 視界の中央がかすむ
  • 夜間の視力低下
  • 色の見え方がぼやける

初期の段階では自覚症状があまりなく、進行してから気づくこともあります。眼科では視力検査や細隙灯さいげきとう検査、眼底がんてい検査などによって水晶体の状態を評価します。


手術で治る?しかし油断できない合併症リスク

白内障が進行した場合、根本的な治療法は手術による水晶体の摘出と眼内レンズ(IOL)の挿入です。アトピー性白内障も同様ですが、若年での手術であること、皮膚症状がコントロールされていないことから、通常の白内障手術と比べて注意点が多くなります。


白内障手術後の合併症とは?

代表的な合併症は以下の通りです:

  • 後発白内障(手術後数ヶ月〜数年で再び視力低下)
  • 眼内炎がんないえん (細菌感染症)
  • チン小帯断裂しょうたいだんれつによる眼内レンズ脱臼
  • 裂孔原性網膜剥離れっこうげんせいもうまくはくり

「眼内レンズ脱臼」と「網膜剥離」

眼内レンズ脱臼とは?

 アトピー性皮膚炎の患者は、長年にわたって目をこする習慣があり、水晶体やチン小帯を支える「チン小帯」が弱っていることが多くあります。このため、手術時に眼内レンズを支える力が不十分で、時間の経過とともに眼内レンズがずれてしまう(脱臼してしまう)ことがあります

 このリスクは、術後数週間〜数年ではなく、「術後10年以上経ってから」突然発症することもあるため、非常に重要なポイントです。

 アトピー性皮膚炎患者における眼内レンズ脱臼の発生率は、一般の白内障患者よりも高く、その多くが晩期発症の脱臼であったとされています【J Cataract Refract Surg, 2001】。

眼内レンズ脱臼の治療法は?

眼内レンズが部分的にずれただけであれば、経過観察や点眼治療で様子を見ることもあります。しかし、以下のようなケースでは外科的対応が必要です:

  • 完全に眼内レンズが外れてしまった(硝子体内落下など)
  • 症状が強く、視力に著しい影響が出ている
  • 緑内障や虹彩炎など合併症が発生している

このような場合には、「眼内レンズ摘出+強膜固定術きょうまくないこていじゅつ」という、硝子体手術しょうしたいしゅじゅつと併用した高度な手術が必要となります。近年非常に多くなってきている眼内レンズ脱臼に対してはこの治療方法が一般的となっていますが、熟練した技術が必要になり、またこの手術にも様々な合併症が発生する危険性があります。

硝子体手術の注意点は?

強膜内固定術を行うためには硝子体手術が必要になることが多いです。硝子体手術では3か所目に穴をあけ、中のゲル状の硝子体を切除していきますが、硝子体が十分に切除されていないと網膜剥離を発生させてしまいます。

また眼内レンズを摘出する際には、角膜の細胞が大幅に減少してしまったり、再固定する際には、著明な近視・乱視が発生してしまうことがあります。

網膜剥離とは

一方、目の奥にある「網膜」という光を感じ取る組織が剥がれてしまう網膜剥離という病気を白内障手術前後に発生してしまう可能性があります。網膜が剥がれると視細胞が働かなくなり、視界の一部が欠けたり、ゆがんだり、最悪の場合は失明に至ります。

網膜剥離はアトピー性皮膚炎をもつ白内障手術前に発症している方もいますし、白内障手術後や眼内レンズ脱臼に対する硝子体手術後に発生する方もいるため、術後の定期的な診察が必須となってきます。

網膜剥離については別の項で解説したいと思います。


注意点

残念ながら弱ってしまった支持組織を強くすることはできず、眼内レンズ脱臼を防ぐことはできません。少しでも白内障手術後の合併症を少なくするために、以下の対策を講じることが重要となります:

  • 術後も目をこすらないようにする指導
  • アトピー皮膚炎の長期コントロール
  • 皮膚科・眼科の連携フォロー


治療の成功には皮膚科との連携が欠かせない

アトピー性皮膚炎のコントロールなくして、眼科治療の成功はありません。皮膚科と眼科が連携し、ステロイド使用の調整やかゆみ対策を講じることが重要です。

また、術後も定期的な検査を受け、チン小帯のゆるみに伴う眼内レンズの位置や網膜剥離の発生の有無を確認する必要があります。


見え方に変化を感じたら ― 早期受診が未来の視力を守る

アトピー性皮膚炎の方は、目のかゆみや乾燥といった症状に気を取られがちですが、見え方に少しでも変化を感じたら早めに眼科を受診してください。

早期発見と適切な治療、そして術後の長期的なケアが、一生の視力を守る鍵になります。

※次回予告:第2弾「アトピー性皮膚炎と網膜剥離」

「突然の視界のゆがみ、それはアトピーが原因かも? ― 網膜剥離とアトピー性皮膚炎の関係」

コメント

タイトルとURLをコピーしました