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緑内障と睡眠時無呼吸症候群の深い関係とは?|原因・リスク・対策を解説

おしらせ

はじめに

緑内障は、日本人の中途失明原因の第1位を占める病気です。一度失われた視野は元には戻らないため、早期発見と進行の抑制が非常に重要です。

一方、「睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome:SAS)」という病気をご存じでしょうか?これは、睡眠中に呼吸が繰り返し止まることで、日中の眠気や集中力の低下を引き起こすだけでなく、脳卒中や心筋梗塞などのリスクを高める病気です。

近年、このSASと緑内障の間に関連性があることが、国内外の研究によって明らかになってきました。このページでは、最新の医学的知見に基づいて、緑内障とSASの関係について、非医療従事者の方にもわかりやすく解説します。


緑内障とは?

緑内障は、視神経が障害を受けて視野が徐々に狭くなっていく病気です。初期はほとんど自覚症状がなく、気づかないうちに進行していることが多いため、「沈黙の病」とも呼ばれています。

緑内障にはいくつかのタイプがありますが、日本人に多いのは「正常眼圧緑内障(NTG)」です。これは、眼圧が正常範囲(10~21mmHg)であるにもかかわらず、視神経が障害されてしまうタイプの緑内障です。


睡眠時無呼吸症候群(SAS)とは?

SASは、睡眠中に何度も呼吸が止まったり浅くなったりする病気です。代表的な症状としては以下のようなものがあります:

  • 大きないびき
  • 日中の強い眠気
  • 集中力や記憶力の低下
  • 夜間の頻尿

原因として多いのは「閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)」で、これはのどの筋肉がゆるみ、気道がふさがってしまうことで起こります。

放置すると高血圧、不整脈、脳卒中、糖尿病、心筋梗塞などの重大な病気のリスクを高めることが知られています。


緑内障とSASの関係

近年、SASと緑内障との関連性が複数の研究で報告されています。特に以下のようなメカニズムが考えられています:

  • 睡眠中に呼吸が止まることで、血中の酸素濃度が低下し(低酸素状態)、視神経への血流が不足する。
  • 無呼吸後に呼吸が再開すると血圧が急激に上昇し、血管がダメージを受ける。
  • 酸化ストレスが増加し、神経細胞が障害されやすくなる。

こうした要因が重なり、SASのある人では緑内障が進行しやすい可能性があると考えられています。

代表的な研究報告

台湾の全国的コホート研究(2013年)

SAS患者は、5年間で開放隅角緑内障(OAG)を発症するリスクが1.67倍に増加していました。これは、健康な対照群と比較して統計的に有意な差でした。 (引用文献1)

台湾の視神経障害に関する研究(2018年)

SAS患者は視神経障害(ON)を発症するリスクが1.95倍高く、特に若年男性でその傾向が強いと報告されています。 (引用文献2)

系統的レビューとメタアナリシス(2022年)

SAS患者は緑内障のリスクが1.50倍高く、低酸素や血管障害が主な原因とされます。 (引用文献3)


正常眼圧緑内障とSASの関連(ガイドラインから)

緑内障診療ガイドライン(第5版)』では、正常眼圧緑内障の背景因子として以下の項目が挙げられています:

  • 夜間血圧の過度な低下(過度のdipping)
  • SASによる慢性的な低酸素状態
  • 視神経乳頭部への血流低下
  • 酸化ストレスの増加

このように、SASは正常眼圧緑内障の進行に関わる眼圧以外の重要な危険因子として医学的に位置づけられています。


どんな人がリスクが高いのか?

以下のような特徴に当てはまる人は、SASと緑内障の両方のリスクが高い可能性があります:

  • 40歳以上で視野検査で異常を指摘されたことがある
  • 夜間にいびきが大きい、または家族に無呼吸を指摘された
  • 日中の強い眠気がある
  • 高血圧や糖尿病などの生活習慣病がある
  • 眼圧が正常にもかかわらず視野が徐々に悪化している

このような場合は、眼科だけでなく睡眠専門医への相談も検討しましょう。


SASの治療が緑内障に与える影響

SASの治療法として最も一般的なのが「CPAP(持続陽圧呼吸)療法」です。この療法は、睡眠中にマスクを装着し、空気を気道に送り続けることで無呼吸を防ぎます。

CPAP療法と眼圧への影響
一方、CPAP療法の眼圧への影響について様々な報告があります。

▶ 2015年の研究報告

CPAPを使用したSAS患者は、睡眠中の眼圧が一時的に上昇する傾向があるとされました。特に緑内障患者では注意が必要です。 (引用文献4

▶ 2020年の研究(長期影響)

CPAPを1年間使用したSAS患者では、眼圧が上昇したという報告があります。このため、緑内障を併発している場合は、眼圧の定期的なチェックが推奨されます。 (引用文献5)

CPAP療法による視野の改善報告も

2006年のケースレポートでは、重度SAS患者がCPAP療法を2年間続けた結果、視野が改善したという報告もあります。 (引用文献6


緑内障とSASを予防する生活習慣とは?

緑内障とSASの発症や進行を防ぐためには、以下のような生活習慣の見直しが効果的です:

  • 適正体重の維持(肥満はSASの大きなリスク因子)
  • 禁煙・節酒
  • 規則正しい睡眠習慣の確立
  • 塩分・糖分の過剰摂取を避ける
  • ストレスを溜めすぎない

また、40歳を超えたら定期的な眼科健診を受けることも非常に重要です。


眼科での検査と相談

もし自分やご家族がSASや緑内障のリスクを感じている場合、以下のような検査を眼科で受けることができます:

  • 視野検査(自覚的に視野の欠損がなくても早期発見が可能)
  • 眼底検査(視神経の状態を観察)
  • 眼圧検査
  • OCT(光干渉断層計)による視神経の構造評価

また、SASが疑われる場合は、睡眠時ポリグラフ検査などを行っている呼吸器内科や耳鼻咽喉科の紹介を受けることができます。


まとめ

  • 緑内障とSASは、一見無関係に思える病気ですが、密接に関連しています。
  • 特に正常眼圧緑内障では、SASなどの眼圧以外の因子が進行に関与している可能性があります。
  • SASの予防は全身の健康を守るだけでなく、緑内障の進行予防にもつながる可能性があります。
  • 定期的な眼科受診と、必要に応じた睡眠医療との連携が重要です。

早期発見と適切な対処によって、視力と生活の質(QOL)を守ることができます。不安な症状がある場合は、遠慮なくご相談ください。

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