近年の眼科検査、手術・治療の新たな技術がアップデートされています。
しかし、新たな検査、技術を導入するにはそれを行う資格者の線引きや、保険点数の決定が必要となってくるのですが、まだ定まっていない部分多いようです。
今回は、新たな検査・技術と共に今後の課題点を取り上げ講演されていました。
大鹿哲郎先生
AIの臨床応用
・眼科AI学会が2020.4月に設立された
・AIはすでに医療の分野で力を発揮してきている。例:内視鏡による癌細胞の発見、MRIによる脳動脈瘤の発見、胸部CTによる肺の異常
・最近で言えば、コロナウィルス肺炎診断のプログラムが開発されている
・研究レベルでは多量の報告や論文が出されている
・中には薬機法承認されたものもある
・しかし保険収載されたものは皆無であり社会実装していく方法が問題となる
・研究レベルでのAIプログラムは簡単であるが…
・早期から戦略を練っておく必要がある
・審査機関半年は販売できない
・医療費が大きくなると困難になってくる
・学会ガイドラインなど必要
網膜AI、角膜AI、緑内障AI、眼腫瘍AI:各学会と協力しAIエンジンを作成
課題
しかし、問題点もある・・・
例1:iDX-DRについて
・海外製ソフトであるiDX-DRは糖尿病網膜症の有無をチェック(→2018年 FDA承認 日本でも導入を検討)
・内科で眼底写真を行い、クラウドにより1分で診断(ここに保険償還を検討)し、異常があれば眼科に紹介する形となる
一見、良さそうであるが・・・
⇒ 他の疾患の見逃しや、眼科の医療費を圧迫する危険性が問題となる。
例2:ハートフローFFRctについて
・ハートフローFFRct:冠血流予備量比
・冠動脈CT1600点 アメリカ社クラウド 計算結果(保険償還 7500点)
⇒ 検査より計算結果をだす方が高額となってしまう
まとめ
・情報は21世紀の石油である
・戦略的思考が極めて重要
・AIエンジンを作成
・ガイドラインの制定
・製造販売許可を得る
・ビジネスモデルを確立する
庄司信行先生
MIGSに関して
1緑内障手術(虹彩切開術)
2緑内障手術(流出路再建術)
3緑内障手術(濾過手術)
4緑内障インプラント手術(プレート無し)
5緑内障インプラント手術(プレートあり)
6水晶体再建術併用眼内ドレーン挿入術
ここ数年、流出路再建術、眼内ドレーンが増加!
MIGS
低侵襲緑内障手術(極小切開緑内障手術)
⇒ 器具を留置する術式と、器具を留置しない術式に分類される
・器具を留置する術式
①前房とシュレム管の交通(Canal-Based MIGS):iStent, iStent Inject W, Hydrus
②前房と上強膜との交通(Suprachoroidal MIGS):CyPass, iStent Supra
③前房と結膜下の交通(Supraconjunctival MIGS):XEN、Preserflo
・器具を留置しない術式
Trabectome,microhook, Kahook dual blade, Sutre-lotomy
※赤:日本で行われている
Trabeculotomy ab interno
①trabecutome
②Kahook Dual Blade (帯状、切除?)
③Microhook ab interno Trbeculotomy (線状、切開?)
結膜温存、手術時間短い、眼圧10台がメリット
Trabecutome:製造販売を他社に売ったため日本では購入不可となった。
その他のMIGS
・Cypass:COMPASS Studyで角膜内皮が5年以上減り続けている → 市場撤退
・iStent Supra(FDA未承認)
・XEN
・Preserflo:MMC併用(MIGS?)
課題
・切開VS器具の留置
⇒ 今後は留置(ステント系)が増える可能性が高い
・技術の担保が必要であり学会などで講習会などが行われるべき
・新たな術式が出てくるが、それが適切な手技なのか、細分化が本当に正しいのか
根岸貴志先生
斜視・弱視領域に対するボトックス治療
・2012に斜視治療に治験
・L100-4 神経ブロック(ボツリヌス毒素を用いた場合)400点は眼瞼痙攣、片側顔面痙攣、痙性痙攣、下肢痙縮、上肢痙縮に対して
・“L”というのは麻酔関係のはずであるが、今後、麻酔としてのボトックス治療として扱わない
・2017年厚労省却下される
厚労省の立場と対策
・ボトックス注射により手術は減る
・施注医資格が必要
・エビデンスの高い論文
・ガイドラインを作成
2020年改訂され、外眼筋注射 G018に分類された
・斜視 1500点
・筋電図計+施注針を用いて2.5単位/0.05ml
・筋電図が反応→施注
適応
・全ての斜視
・急性内斜視、急性期の外転神経麻痺
・大角度には不向き、効果にばらつき
利点
・早い
・斜視核不安定症例にも施注可能
・過矯正となっても戻る
・一時効果
・斜視術前のトライアル
欠点
・一時効果であり持続しない
・効果不安定
・一過性眼瞼下垂
・一過性上斜視
効果
最近では急性内斜視、中でもスマホ内斜視が問題
・若年者に発症
・複視を自覚
・時間により角度が変わる
・使用軽減により自然消退1-2割
・ボツリヌス毒素の良い適応
97名147回を調査
・平均変化 術前 21.7⊿→最大-1.4⊿→最終12.4 ⊿ (⊿:斜視の角度)
・初回投与で完治38眼(1/3が完治)
・多くは最大効果で過矯正になる
西田幸二先生
求められる新しい技術
再生医療
・医療の高度化
・QOLの劇的な改善をもたらす技術⇒再生医療、眼内レンズ、人工網膜
再生医療等製品
・ジェイス
・ジャック
・テムセル
・ステミラック
・キムリア
・コラテジェン
・ソルゲンスマ
・ネピック 眼科領域で国内初
・幹細胞を増幅する技術⇒フィブリングルーを用いる技術→NIDEX J-TEC
・大阪大学では、国産の温度応答培養皿を用いる
ネピックの製品概要
・角膜輪部を原材料として製造される時価培養角膜上皮シート
・温度応答性培養皿に培養された状態で医療機関に輸送
・医療機関で医師が細胞シートを剥離して患眼に移植
適応
・角膜上皮幹細胞疲弊症
(スティーブンスジョンソン症候群、眼類天疱瘡、無虹彩症などの角膜上皮幹細胞に形成以上をきたす疾患、再発翼状片、特発性角膜上皮幹細胞疲弊症を除く)
・角膜中心に結膜が及ぶときが適応StageⅡ以上
課題
保険償還価格
・採取運搬セット428万 培養角膜上皮パッケージ547万 と高額
・準用技術料52600点
・口腔粘膜を用いる技術、iPSを用いる技術が今後期待される
山本修一先生
遺伝性網膜疾患に対する新規治療の診療報酬について
現在、世界中で遺伝子疾患の治療を行っている
網膜変性疾患の治療戦略
・遺伝子異常
・タンパク異常
・視細胞変性
・網膜変性
例:
1.レーベル先天盲に対する遺伝子治療(正常なRPE65遺伝子を網膜下に注入)
・2008年 全例で視機能改善が得られた
・欧米で薬事承認
・Novartis 両眼で9600万!
・小児への硝子体手術を行った後、遺伝子溶液を42Gで網膜下に注入(アデノウィルスベクターを注入)
2.コロイデレミアの治験が海外で終了し、日本でも準備が進められている
課題
診療報酬:黄斑下手術47150点、硝子体注射580点
これらの保険点数が妥当?
まとめ
眼科の中でも各領域で、世界で新しい眼科技術が導入され始めています。いままで診断や治療が困難であった病気に対してAIを用い、手術手技が増え、治療の幅が拡大してきました。
しかし、それらの日本への導入には様々な課題点があり、ひとつずつ乗り越えていかなければならないようです。