アトピー性皮膚炎と目の意外な関係
アトピー性皮膚炎というと、皮膚のかゆみ・湿疹・かさつきなど、外見に出る症状が注目されがちです。しかし、実際には皮膚以外にも影響を及ぼす“全身性疾患”の一つであり、特に「目」に合併症を引き起こすことが知られています。
前回の「アトピー性白内障」に続き、今回は“視力を急激に失う恐れのある”重大な疾患、「網膜剥離」についてご紹介します。
- 第1弾:アトピー性皮膚炎と白内障の関係について
- 第2弾:アトピー性皮膚炎と網膜剥離の関係について
- 第3弾:アトピー性皮膚炎と緑内障(続発性緑内障)の関係について
どの記事も、大学病院で白内障手術、網膜剥離手術、緑内障手術を行ってきた医師が、わかりやすく丁寧に説明しています。ご自身やご家族の健康管理の一助となれば幸いです。
はじめに:網膜剥離とは?
網膜剥離とは、目の奥にある「網膜」という光を感じ取る組織が剥がれてしまう病気です。網膜が剥がれると視細胞が働かなくなり、視界の一部が欠けたり、ゆがんだり、最悪の場合は失明に至ります。
アトピー性皮膚炎となぜ関係があるの?
網膜剥離の原因にはいくつかありますが、アトピー性皮膚炎を持つ方は網膜剥離のリスクが高いとされています。その背景には、次のような要因があります:
1. 目を強くこする習慣
アトピー性皮膚炎の方は、目の周囲にもかゆみを感じることが多く、無意識のうちに目をこする癖がついています。この物理的な圧力が繰り返されると、網膜に牽引力が加わり、網膜に裂け目(裂孔)が生じます。アトピー性皮膚炎に伴う網膜剥離は、専門医でもみつけにくい場所に裂孔を形成する場合もあるのです。
2. 硝子体への刺激
眼球内部の「硝子体」は年齢とともに収縮しますが、アトピー性皮膚炎患者はその収縮が急激かつ強い場合があり、網膜を引っ張ってしまう力が加わります。また若くして白内障手術を行った方も、目の中の環境が変化し網膜剥離を助長させてしまうこともあります。
3. 慢性炎症による組織の弱化
長期的な全身性炎症により、眼内組織(網膜・網膜色素上皮)も脆弱になりやすく、通常より剥がれやすい状態になっていることが報告されています。
アトピー性皮膚炎患者における網膜剥離の頻度は、健常人の約3倍にのぼるとされ、特に若年男性に多く発症する傾向がある。
症状:こんな“見え方の異常”に注意!
網膜剥離の初期症状は、非常に分かりづらいことがあります。しかし、次のような症状があれば、早急な眼科受診が必要です。
- 視界の端にカーテンのような黒い影が現れる
- 光がピカピカと走る(光視症)
- 飛蚊症が急に増える
- 視界が波打つ、ゆがむ
- 急に視力が低下した
若い方の多くは網膜の中心である「黄斑」が剥がれた時に初めて気が付くことが多いのです。黄斑がはがれてしまったあとでは後遺症が残ってしまいますので、黄斑がはがれる前に治療を行うのが鉄則です。
これらの症状が少しでもある場合は、すぐに眼科を受診してください。
診断と検査
眼科では、次のような方法で診断を行います:
- 視力検査
- 眼底検査(眼底を見る検査:瞳を開く目薬をする場合があります)
- OCT(光干渉断層計)検査(中心がはがれているか判断します)
また、アトピー性皮膚炎の既往がある場合は、裂孔の有無だけでなく、網膜の“薄くなった部分(格子状変性など)”にも注意して観察が行われます。

治療法 ― 手術が基本
- 網膜裂孔のみ:レーザー光凝固治療
- 網膜剥離:硝子体手術、強膜内陥術など (一度剥がれたらレーザーでは治療できません) ※専門医による手術治療が必要です
これらの治療法は病状(年齢、裂孔の位置、数、形状)に応じて術式が選ばれます。治療率(復位率と言います)は初回で90%程度と言われています。残りの10%は2~3回治療が必要な難治な網膜剥離もあります。日本の網膜剥離研究ではその危険因子の一つとして、アトピー性皮膚炎が挙がってきます。
再発リスクと予防法
アトピー性網膜剥離は、再発率が高いとされる疾患です。以下の要因で再剥離が起こりやすくなります:
- 手術後に再び目を強くこする
- 裂孔とは別の網膜へ新たに牽引がかかってしまう
再発を防ぐためのポイント
- アトピーの皮膚症状をコントロールし、かゆみを減らす
- 医師の指示に従い、定期通院と眼底検査を欠かさない
当院からのメッセージ
当院では、アトピー性皮膚炎の患者さまにも適切な眼科的フォローを行っております。皮膚のかゆみだけでなく、「目のかゆみ」や「見え方の変化」にもぜひ目を向けてください。
また、長年にわたり網膜剥離の手術を行っておりました医師の診察により、網膜剝離手術後も定期的な通院で治療後の注意点や、反対眼の治療の必要性など慎重な経過観察が必要になります。
まとめ:アトピーの方は「目」にも気を配って
アトピー性皮膚炎は、皮膚だけでなく「目」にも大きな影響を与える疾患です。特に網膜剥離は、気づかずに放置すると失明の危険がある重大な病気です。
若い方でも発症する可能性があるため、見え方に違和感を覚えたら迷わず眼科へ。皮膚科と眼科が連携しながら、全身のケアをしていくことが、将来の視力を守るカギになります。
網膜剥離について詳細はこちら<網膜硝子体学会>
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