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白内障手術 タイミングとその注意点とは?

おしらせ

白内障手術の必要性とリスクについて

白内障手術は、視力を回復し、生活の質を向上させるための一般的で効果的な手術です。病気は早期発見早期治療が重要と言われますが、すべての患者にとって必ずしも早期手術が適しているわけではなく、慎重な判断が必要です。特に、最近注目されている白内障手術の問題として、眼内レンズ脱臼(眼内レンズが眼内で落下する現象)が挙げられます。以下では、白内障手術の必要性、リスク、そしてその対策についてわかりやすく解説します。


白内障とは?

白内障とは、目の中の水晶体が濁ることで視力が低下する病気です。主な原因は加齢ですが、外傷や遺伝、糖尿病などの全身疾患、さらには紫外線や喫煙などの生活習慣もリスク因子とされています。

白内障の症状
  • ぼやけた視界
  • 光がまぶしく感じる
  • 色がくすんで見える
  • 夜間の視力低下    など

これらの症状が進行すると、日常生活に支障をきたすようになります。このような場合、白内障手術が検討されます。


白内障手術のタイミング

従来、白内障手術は視力低下が日常生活に大きな影響を与え始めた段階で行われることが一般的でした。しかし手術機器の安全性が増し10分程度で終わることもでき、患者さんとしても比較的安全な手術という認識も多く、近年では「ライフスタイル白内障」という考え方が広がり、視力がまだ大きく低下していなくても患者の生活スタイルに合わせて早めに手術を受けるケースが増えています。

早期手術のメリット

  • 視力を早期に改善できる
  • 遠近両用や3焦点・5焦点といった多焦点レンズ(プレミアム眼内レンズ)で老眼も同時に矯正可能
  • 仕事や趣味を快適に行える

早期手術のデメリット

  • 手術後に長期的な合併症が発生するリスクがある
  • 眼内レンズ脱臼のリスクが高まる

メガネによる対応

白内障が初期段階の場合、多くの患者はメガネの度数変更で視力を補正することが可能です。特に日常生活で大きな支障がない場合、手術に踏み切る前にこれらの方法を検討するのも有効です。


眼内レンズ脱臼とは?

眼内レンズ脱臼とは、手術で挿入した眼内レンズが眼内で元の位置からずれてしまう現象です。これは、術後数年から数十年後に発生する可能性があり、特に初期の白内障手術を受けた患者で注意が必要です。

眼内レンズ脱臼の原因

  • 加齢や基礎疾患:チン小帯(レンズを支える線維)が加齢や病気で弱くなる。
  • 外傷:目への外傷や圧力が原因。
  • 術後変化:水晶体嚢の収縮や組織の変性。

眼内レンズ脱臼の発生率

  • ある研究では、白内障手術を受けた患者の0.5%から3.0%で眼内レンズ脱臼が発生するとの報告があります(Ref.1)。
  • 別の長期的な調査によると、術後10年以上経過した患者における脱臼発生率は5%以上に達するケースも報告されています(Ref.2)。
  • 特に、マルファン症候群網膜色素変性症もうまくしきそへんせいしょうなど基礎疾患を持つ患者ではリスクが高いとされています。

脱臼が引き起こす問題

  • レンズがずれることで視力が低下する。(急にピントが合わなくなる、横になるとぼやけるなどの症状があります)
  • 眼の中で炎症が発生し、眼圧が上昇する。
  • 網膜剝離や網膜裂孔を引き起こす可能性。

脱臼後の治療とその影響

眼内レンズが脱臼した場合、以下の治療が行われることがあります:

  1. 眼内レンズ摘出
    • 脱臼したレンズを取り出し、新しいレンズを挿入します。
    • これにより乱視が増加する場合があります。
  2. 再手術
    • 網膜剝離や裂孔が発生した場合、追加の手術が必要になります。
  3. 炎症と眼圧上昇の管理
    • 続発性緑内障が発症し、薬物治療、手術治療が行われる場合もあります。

白内障手術のリスクを最小限にするために

1. 患者の適応評価

白内障の進行状況、生活スタイル、年齢、基礎疾患などを総合的に評価し、手術のタイミングを慎重に検討します。

2. 適切な術式の選択

手術中の極度に組織が弱い場合、人工レンズを挿入する袋を補強するキャプスルテンションリング(CTR)を挿入することで補強するなど対応が可能です。

3. 術後管理

手術後の経過観察を適切に行い、水晶体嚢の変化や脱臼の兆候を早期に発見します。


手術の推奨に関する懸念

一部の施設では、白内障手術が視力改善に迅速で簡便な方法であるため、患者のニーズや代替手段を十分に検討せずに手術を勧めるケースがあるとの指摘もあります。これは、医療者側の利便性や経済的な要因が影響している場合があります。

  • 患者に対して手術のメリットだけでなく、リスクや代替手段についても十分に説明する。
  • メガネやコンタクトレンズによる対応が可能な場合、それを優先的に提案する。

医療者側としてこのような対応が患者さんにとって良い結果となる場合があります。

患者さんへのアドバイス

  1. 早めに眼科を受診する 白内障の進行具合や視力低下の程度を把握するため、定期的に眼科検診を受けることが大切です。
  2. 手術のメリットとリスクを理解する 医師から手術の詳細な説明を受け、疑問点を解消してください。
  3. 術後のケアを怠らない 術後は医師の指示に従い、定期的な診察を受けることで、合併症のリスクを低減できます。

経験から

これまで大学病院など多くの施設において、眼内レンズ脱臼の診察や手術を多数経験し、術後の経過の良し悪しを見てきました。その結果、改めて手術の適応やタイミングを慎重に考える必要があると強く感じています。

  • メガネで合わせれば十分に見えるけれど、まぶしさが気になる程度の患者さん
  • 自動車免許更新を控え講習直前に引っかかった患者さん
  • 両眼で見ているか片目が全く見えなくなっていたことに気が付かず周りの人から眼の奥が白いよと言われて受診する患者さん

など、白内障の進行は人それぞれであり、治療が必要なタイミングも人それぞれです。患者一人ひとりの状況に応じた適切な判断を行うことが、最終的には長期的な視力の維持と患者満足度の向上につながると信じています。


まとめ

白内障手術は視力改善に有効な治療法ですが、すべての患者にとって最適なタイミングや方法が異なります。特に初期の白内障手術では、眼内レンズ脱臼のリスクを理解し、長期的な視点での適切な判断が必要です。医師との十分な相談を通じて、ご自身にとって最良の選択を行いましょう。


引用文献

  1. Davison JA. “Capsule contraction syndrome.” Journal of Cataract & Refractive Surgery. 1993;19(5):582-589.
  2. Werner L, et al. “Postoperative capsular bag opacification and intraocular lens dislocation: Risk factors and preventive strategies.” American Journal of Ophthalmology. 2009;148(6):867-875.

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