先日、緑内障の配合点眼薬についての講演を聞く機会がありました。臨床の中で感じていることや考えも含め、患者さんにもわかりやすくまとめてみたいと思います。
緑内障の治療は長期間にわたることが多く、点眼薬の選び方や治療のステップを理解しておくことがとても大切です。
緑内障治療の基本は「眼圧を低く保つこと」
緑内障は、視神経がゆっくりと障害されることで、視野が少しずつ欠けていく病気です。
一度失われた視野は元に戻らないため、治療の目的は眼圧を下げて進行を抑えることです。
最初は1種類の点眼薬で治療を始めますが、十分に眼圧が下がらない場合、
2本目の点眼追加、または**SLT(選択的レーザー線維柱帯形成術)**といった次の治療段階を検討します。
配合点眼薬とは?その基本構造と仕組み
配合点眼薬とは、作用の異なる2種類の点眼薬を1本にまとめた薬のことです。
たとえば「プロスタグランジン関連薬」と「β遮断薬」のように、異なる作用で眼圧を下げる成分を組み合わせています。
つまり、
「2本の薬を1本にまとめた便利な点眼」
というイメージです。
▶ 配合点眼薬の例
| 配合点眼薬の名称 | 含まれる主な成分 | 主な作用機序 |
| ザラカム®配合点眼液 | ラタノプロスト+チモロール | 房水流出促進+産生抑制 |
| デュオトラバ®配合点眼液 | トラボプロスト+チモロール | 房水流出促進+産生抑制 |
| タプコム®配合点眼液 | タフルプロスト+チモロール | 房水流出促進+産生抑制 |
| ミケルナ® | ラタノプロスト+カルテオロール | 房水流出促進+産生抑制 |
| コソプト®/コソプトミニ® | ドルゾラミド+チモロール | 房水産生抑制(炭酸脱水酵素阻害+β遮断) |
| アゾルガ® | ブリンゾラミド+チモロール | 房水産生抑制 |
| アイベータ®配合点眼液 | ブリモニジン+チモロール | 房水流出促進+産生抑制 |
| アイラミド®配合点眼液 | ブリモニジン+ブリンゾラミド | 房水流出促進+産生抑制 |
| グラアルファ®配合点眼液 | リパスジル+ブリモニジン | 房水流出促進+産生抑制 |
このように、同じように眼圧を下げる薬でも組み合わせによって特徴が異なります。
眼科医は、患者さんの眼圧・病型・副作用の有無などを踏まえて選択します。
配合点眼薬のメリット
● 点眼回数が減り、続けやすい
「朝晩で2本」→「朝もしくは晩に1本」にできることもあり、点眼忘れが減ります。
継続が何より大切な緑内障治療では、大きな利点です。
● 保存剤の負担を軽減できる
複数の薬を1本にまとめることで、保存剤(ベンザルコニウム:BAKなど)による刺激を減らせるため、ドライアイや結膜炎を起こしやすい方に有効です。
● 点眼の順番や間隔を気にしなくてよい
5分以上間を空ける必要がないため、忙しい方でも負担が少なくなります。
2本目以降の治療で考えるもう一つの選択肢:SLT(選択的レーザー線維柱帯形成術)
配合点眼薬の他に、2本目以降の治療で選択肢となるのが**SLT(Selective Laser Trabeculoplasty)**です。
これは、目の中の房水の排出口(線維柱帯)にレーザーを照射し、流れを良くする治療です。
▶ SLTの特徴
- 外来で行う低侵襲レーザー治療(入院不要)
- 痛みがほとんどなく、治療時間は数分
- 平均で15〜25%程度の眼圧下降効果
- 再照射可能(効果が薄れても再度レーザー治療を行える)
- 副作用が少なく、点眼を減らせる可能性も
配合点眼薬とSLT ― どちらを選ぶべき?
緑内障治療では、「2本目をどうするか?」が大きな分かれ道です。
次の表は、配合点眼薬とSLTを比較したものです。
| 比較項目 | 配合点眼薬 | SLT(レーザー治療) |
| 治療の性質 | 薬物療法(毎日点眼) | 外来レーザー(1回施行) |
| メリット | 続けやすく、即効性あり | 点眼負担を減らせる、再施行可 |
| 副作用 | 目の充血・刺激感など | 一時的な炎症・圧上昇(まれ) |
| 効果の持続 | 点眼を続ける限り持続 | 1〜3年程度(再照射可) |
| 費用 | 保険適用(3割負担 約500〜1,000円/本) ※月1~2本使用の場合10,000~20,000円/年 | 保険適用(3割負担 約3万円前後/片眼) |
どんな人に向いているか?
| 状況 | 適した治療 |
| 点眼を続けるのが苦手 | SLT |
| 点眼でも十分管理できる | 配合点眼薬 |
| 保存剤による刺激が強い | SLTまたは防腐剤フリー点眼 |
| 複数の薬を使っても眼圧が下がらない・進行が急速 | 配合点眼薬+SLT併用 |
眼科医は、眼圧の目標値・年齢・生活スタイル・全身疾患を考慮して、最も適した治療法を選びます。
Q&A:患者さんからよくある質問
Q1. 配合点眼薬とSLTは併用できますか?
→ はい、可能です。SLTで下げきれない場合に配合点眼を追加したり、逆に配合点眼を減らすためにSLTを行うこともあります。
Q2. SLTは何回でもできますか?
→ 効果が薄れてきた場合、2回目・3回目の再照射も可能です。ただし個人差があるため、医師の判断が必要です。
Q3. SLTのあとも点眼は必要ですか?
→ 多くの場合は必要ですが、点眼の本数を減らせるケースもあります。
Q4. 配合点眼薬はすべての人に使えますか?
→ β遮断薬が含まれるものは、喘息や心疾患のある方では慎重な判断が必要です。必ず医師に相談してください。

まとめ:配合点眼薬とSLTは“続けやすい治療”のための選択肢
緑内障の治療で最も大切なのは、**「無理なく続けられること」**です。
配合点眼薬は、2本の薬を1本にまとめて続けやすくする工夫。
SLTは、点眼本数を減らしながら眼圧を下げる工夫。
どちらも、「患者さんが治療を続けやすいこと」を目的にしています。
点眼が2本目になったとき、または次の治療を考えるときが、SLTを検討する良いタイミングです。
眼科専門医と相談し、**あなたの生活に合った“続けられる治療”**を見つけていきましょう。
※さらに詳しく知りたい方はこちら









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