先日、エレックス社のSLTユーザーズミーティングに参加し、緑内障治療の選択肢の一つとなるレーザー繊維柱帯形成術(SLT)の有効性について、緑内障で著名な先生方の講演を拝聴してきました。
福井県済生会病院眼科部長 新田耕治 先生
NTT東日本札幌病院眼科部長 片井麻貴 先生
日本医科大学眼科学教室 中元兼二 先生
講演の中では、緑内障における日中眼圧と夜間眼圧の重要性ついて議論されていました。
緑内障は視神経障害を引き起こし、視野狭窄を進行させる疾患で、眼圧はその主要な危険因子です。眼圧の管理は緑内障治療の基本ですが、眼圧は1日の中で常に変動し、特に日中と夜間では顕著な違いが見られます。以下に、日中と夜間の眼圧変動の特徴、それが緑内障に与える影響、および治療への応用について詳細に解説します。
1. 日中眼圧の特徴
1.1 日内変動
- 正常眼圧の変動範囲
健康な人では、日内変動は約3~6 mmHgと比較的小さいです。朝起床後に眼圧が上昇し、昼間にかけて徐々に低下する傾向があります。 - 緑内障患者の変動
緑内障患者では変動幅が大きくなることが多く、視神経への影響が増加します。変動幅が広いこと自体が緑内障進行のリスク因子とされます。
1.2 日中眼圧の影響
- 日中の眼圧は、患者の活動レベル、姿勢、液体摂取量などの生活習慣や環境に影響されます。
- 起床直後の眼圧上昇は、体液の再分布や角膜の生理的変化によるとされています。
1.3 日中眼圧の管理
- 点眼薬(プロスタグランジン製剤、β遮断薬など)は、日中の眼圧低下に効果的です。特にプロスタグランジン製剤は24時間にわたる持続効果があり、変動を抑えるのに役立ちます。
2. 夜間眼圧の特徴
2.1 夜間眼圧の動態
- 夜間の眼圧上昇
夜間、特に仰臥位(寝ている姿勢)では眼圧が上昇することが多いです。これは静脈還流の変化や房水排出機能の低下によるものです。 - 房水動態の変化
夜間は房水産生量が減少しますが、ぶどう膜強膜流出経路の効率低下により眼圧が上昇することがあります。
2.2 夜間眼圧の影響
- 夜間眼圧は視神経へのストレスに寄与し、日中に比べて変動が視神経障害の進行に強く影響する可能性があります。
- 特に正常眼圧緑内障(NTG)では、夜間の眼圧上昇が視神経障害の進行と関連することが報告されています。
2.3 夜間眼圧測定の課題
- 従来のクリニックベースの眼圧測定は、日中のデータが中心であり、夜間の眼圧動態を正確に把握することが困難です。
- 最近では、連続眼圧測定デバイス(例:Triggerfish®)や自宅で測定可能な手持ち眼圧計(iCare HOME 2)により夜間眼圧変動をモニタリングすることが可能となり、臨床的な活用が進んでいます。
3. 日中眼圧と夜間眼圧の比較
特徴 | 日中眼圧 | 夜間眼圧 |
変動幅 | 小さい(通常3~6 mmHg) | 大きい場合が多い |
影響因子 | 活動レベル、姿勢、液体摂取 | 寝姿勢、房水排出経路の変化 |
測定方法 | トノメーターによる外来測定 | 連続測定デバイスまたは特別測定 |
治療反応性 | 点眼薬が効果的 | 一部の薬剤や手術が有効 |
4. 治療と日中・夜間眼圧への影響
4.1 点眼薬
- プロスタグランジン製剤(PG製剤)
24時間にわたり眼圧を低下させる効果があります。夜間眼圧にも作用するため、日中・夜間の眼圧管理に有用です。 - β遮断薬
日中の房水産生を抑制する効果が強いですが、夜間は房水産生が低下しているため効果が弱まる傾向があります。 - 炭酸脱水酵素阻害薬
夜間でも眼圧低下効果を示す薬剤として有用です。
4.2 手術
- 線維柱帯切除術(TLE)
日中・夜間問わず、眼圧を長期間にわたって安定させる効果があります。 - 線維柱帯切開術(TLO)
眼圧低下効果はTLEほどではありませんが、夜間の眼圧変動を抑えることが期待できます。
4.3 レーザー治療
- 選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT)
主に日中の眼圧低下を目的としますが、夜間眼圧の変動を抑えることも可能です。効果の持続期間には個人差があるため、定期的な再治療が必要です。
<当院でのSLT治療についてはこちらをご覧ください>
結論
緑内障治療において、日中と夜間の眼圧を包括的に管理することは、視野障害の進行を抑制するうえで不可欠です。日中の眼圧低下だけでなく、夜間の眼圧動態にも注目することで、より効果的な治療戦略が立案できます。今後、さらなる技術革新と研究の進展により、患者個別の最適な治療が実現されることが期待されます。
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