はじめに
最近、子どもがスマートフォン、タブレット端末に触れる機会が増えてきています。
YouTubeでは子どもから大人まで幅広く興味を引く動画が配信され、2020年以降のコロナ渦では学校がオンライン授業となり、必然的に小さなモニター画面を見る機会が増えてきています。
子どもが小さいうちからスマートフォンや小型ゲーム機を扱うことに抵抗を持つ親御さんは多いと思いますが、いまやゲームをしていない子どもの方が珍しいこともあり、学校においてもゲームを通じてコミュニケーションを図る場面は多く、社交性やコミュニケーション力を養っていかなければならない時代になっています。
しかし、常にゲームに触れていると、勉強含め他のことへの集中ができない原因になり、ゲーム依存症へと進んでしまうこともあります。2019年5月、世界保健機関(WHO)はゲーム依存症をゲーム障害と称して、国際疾病として正式に認定しました。
そのような中スマートフォンやタブレット、小型ゲーム機などのデジタル機器の過剰使用が原因と考えられる急性の内斜視が増えています。
急性内斜視とは?
急性内斜視の話をする前に簡単に内斜視について説明します。
内斜視とは内斜視とは、右目か左目どちらかが内側に向いている状態です。
発症の時期、原因、調節の有無、斜視角の程度、変動などが分類は様々あります。
乳児(先天)内斜視
乳児(先天)内斜視は、生後6か月以内に発症した内斜視のことをいいます。ほとんどは、生後1か月以降に発症します。
後天内斜視
後天内斜視とは、生後6か月以降に発症した内斜視のことをいい、調節性内斜視や急性内斜視があります。小児では屈折性の内斜視が多いのですが、大人では脳の異常、血管の異常、けが、強い近視、ストレスなどさまざまな原因で内斜視がおこります。
そのような中で、脳に明らかな異常もなく、屈折も特別問題ないこどもにおいてスマートフォンやタブレット、小型ゲーム機などを長時間見ていることで発症する急性内斜視があります。
急性内斜視の症状
急性内斜視の主な症状は物が二重に見える「複視」です。
通常、近くのものを見るときには近見反応といって視線を内方に向けることと(内よせ)、ピントを合わせること(調節)の両方を行います。近くから遠くに視線を移すときには内よせが緩みますが、急性内斜視ではこれがうまくコントロールできなくなっている状態だと考えられます。
急性内斜視についての報告
スマートフォンに関連した内斜視は、2016年に韓国で初めて報告されました。
内容としては、
・ 忠南大学小児眼科の2009~2014のカルテから12人(7-16歳)を対象
・1日あたり平均およそ6時間、10か月程度スマートフォンを使用
・全ての患者さんが30cm以下の距離でスマートフォンを使用
・ 9人が左右にだぶってみえる
・うち5人は遠くをみるときにときどきだぶってみえた
その後、2019年に日本小児眼科学会と日本弱視斜視学会が合同学会総会で発表した眼科医への調査アンケートでは、2018年に5~35歳の急性内斜視の患者を診察した経験があるかを尋ね、371人中158人が診察を経験していました。
その8割近い122人の眼科医はスマホなどのデジタル機器の使用が発症に関係したと考えられる患者がいたと回答されていました。そしてデジタル機器利用による斜視の悪化は若年層、とくに12歳以下の低年齢層で多い可能性があると言われています。
急性内斜視の原因と予防方法
デジタル機器使用が原因になる理由としては、使用時の目からの距離が平均20cmと紙媒体の平均30cmと比較して短いこと、読書などと比べて視線を動かす範囲が狭いため近見反応が長時間持続していることが考えられます。
実際にどのくらいの使用時間で心身に支障をきたすのかについてはまだ明確なものはありません。デジタル機器の使用をゼロにすることは現実的ではありませんが、予防策として
① 画面と眼の距離を保つ(パソコンで50cm、スマートフォンで30cm以上)
② ゲームやスマートフォンは1日〇時間までと決める
③ 10分〜20分に1度は休憩して遠くを見てリフレッシュする
④ 適度に屋外で遊ぶ
が勧められます。若年者、特に視機能が発達途中にある年齢は注意が必要だと思われます。
まとめ
デジタル端末と学校教育について
「児童生徒一人一台端末」と「高速大容量の通信ネットワーク環境」の整備を目指した文部科学省から示された教育方針である「GIGAスクール構想」は既に2019年に開始されています。
当初は2023年までに整備を完了する予定だったのですが、新型コロナウイルス感染拡大を受けた一斉休校により遠隔学習の必要性が注目されたことで一気に加速しました。これに加え帰宅後もスマートフォン、小型ゲームなどで一日中デジタル端末に触れる機会が増えています。
難しいかもしれませんが、距離、休憩を十分に取り、屋外活動で日光を浴びる時間を増やすようにしましょう。